月曜の朝、経理企画グループ宛てに一通の指示が届く。新リース会計基準への対応で、全契約書を洗い直せという内容だ。
対象は数千件規模だが、増員の相談は出ていない。今いるメンバーのまま、期限までに全件を人の目で確認しろという建付けだ。
この手の特命プロジェクトは、査定に載らない非評価労働だと以前に書いた。ただ今回は規模が一桁違う。積み上がるのは、数千件の契約書そのものだ。
flowchart TD
A[全件を人力] --> B[工数だけ膨張]
B --> C[AI一次仕分け]
C --> D[グレーゾーンのみ人]
頭数を増やさず工数だけが積み上がる特命PJ#
新会計基準対応、内部統制の是正、個人情報の棚卸し。法令や監査が起点の特命PJには共通点がある。期限は外から決まり、人員は内部の持ち出しで賄われる。
ITmediaが報じたアルペンの事例では、新リース会計基準対応で見直しが必要な契約書は約5,000件、従来の方法なら約3,300時間かかる見積もりだったという。対応にあたったのは財務部決算グループの2人(うち1人はマネジャー)。契約書管理を担う法務・株式グループの1人を加えた計3人だった(出典: 「全部手作業は無理」 新リース会計対応に追われたアルペン、AIで一次判定「3300→80時間」にできたワケ)。
3人で3,300時間をこなすなら、単純計算で1人あたり約1,100時間になる。半年間、平日毎日3時間の残業を積んでも届かない数字だ。
ここで起きているのは能力不足ではなく算数の破綻だ。だが多くの現場は、この数字を個人の気合いの問題として処理しようとする。
「全件を同じ深さで見る」という前提を誰も疑っていない#
最初に試すのは大抵、契約書を人数分に均等割りして、各自が定時後にさばく計画だ。一見公平に見えるが、契約1件あたりの負荷がまるで違うことを無視している。
標準書式で金額も期間も定型の契約と、更新オプションや変動賃料が絡む契約を、同じ「1件」として数えてしまう。数週間続けると、簡単な契約にも同じ丁寧さで時間をかけ、進捗は計画より遅れる。
ここで見直すべきは作業量ではなく、「全件を同じ深さで見る」という前提そのものだ。監査対応だから念のため全部見る、という発想は、判定基準を一度も言語化しないまま止まっているにすぎない。
何を人が見るべきかの基準が誰にも書かれていないこと自体が、認識負債としてチーム全体に積み上がっている。
AIの一次仕分けで、人の目はグレーゾーンだけに絞る#
全件を同じ深さで見る代わりに、機械的な判定基準で三段階に仕分ける。
- 明白に対象外・簡易処理でよいもの(契約期間12ヶ月以下、少額基準以下、標準書式と完全一致)→ AIが自動判定してそのまま処理
- 明らかに人間の判断が要るもの(契約金額が大きい、更新オプションの実質的行使判定が必要)→ 最初から人に振る
- 機械判定だけでは白黒つかないグレーゾーン(非定型な条項、変動賃料、判断の余地がある文言)→ ここだけAIが理由つきで抽出し、人が見る
この三段階を回すには、判定基準を先に文章化してAIに渡す必要がある。
以下の契約書データから、新リース会計基準の要判定リストを作ってください。
分類ルール:
1. 契約期間が12ヶ月以下 → 「対象外(短期リース)」
2. 契約金額が[閾値]円未満かつ標準書式と一致 → 「対象外(少額リース)」
3. 変動賃料条項、更新オプション、解約条項に非定型な文言がある → 「要人間確認」
4. 上記いずれにも当てはまらない → 「要人間確認」
出力形式: 契約番号・分類結果・該当した理由(条文の引用箇所)を1行ずつこの基準で仕分けると、人が実際に読むのは「要人間確認」に落ちた分だけになる。アルペンの事例では、一次仕分けを挟んだ後の実処理が約80時間まで圧縮されたと報じられている。
狂いが出やすい箇所だけに人の目を絞る発想は、深夜残業に化けるExcel集計で書いた3点検算と同じだ。ただ、こうした判定基準の作成と検証に充てる時間が、AIで減らない課長の負荷として積み上がるのは、覚悟の上で進める必要がある。
ただしAIの一次仕分け結果をノーチェックで確定させてはいけない。検証しないまま渡すのと同じ構造の事故が、今度は監査で起きる。「対象外」判定のうち一定割合(たとえば5%)を抜き取り、人が再確認する運用を最初から組み込む。
逃げの一手#
経理や監査の側がAI判定そのものに難色を示すこともある。その場合は、まず自分のチーム内だけで小規模なパイロットを回す。契約書100件程度を対象に、AIの分類と人間の全件チェックを突き合わせ、見落としの件数を数字で示す。
それでも全件人力の方針が変わらないなら、この作業は本来の評価対象業務ではない期間限定の特命だと明言した上で、期限までに終わらない分は上に繰り越しを申告する。全部を自分の残業で埋め合わせる義務はない。
まとめ:全件チェックの前提を疑えば、人の目は本当に必要な場所にしか使わない#
特命PJで積み上がるのは工数であって、能力の証明ではない。仕分けの基準を先に作れば、人の目は本当に必要な場所にしか使わなくて済む。
本記事は AI が下書きし、管理人が監修しています。
査定に載らない組織仕事を振られたその日に、そのまま出せる定型文が3通ある。
→ 期待値コントロール定型文集(抜粋版)続きはタイムラインに置いていく。
