月例の部会で、役員がネット記事を印刷して持ってきた。大手SIerが「FDE」という職種を掲げ、顧客の現場に入り込んでAIを作るという話だ。役員はそれを机に置き、「うちの常駐メンバーと何が違うんだ。SIerの将来性をどう見ている」とあなたに聞いた。
常駐先に出している部下の顔は浮かんだ。だが、答えになる言葉は出てこなかった。
flowchart TD
A[常駐メンバーの仕事] --> B[人月の作業]
A --> C[顧客固有の判断]
B --> D[AIで単価圧縮]
C --> E[役員説明で先に出す]
「常駐SEの言い換え」に見えるのは、仕事の中身が外から1枚に見えているからだ#
FDEはForward Deployed Engineerの略だ。ITmedia ビジネスオンラインの記事の言葉では、「自社プロダクトの知見を持つエンジニアが、顧客企業の現場に入り込み、課題の発見からシステムの設計・実装までを担う」職種を指す。
同記事によると、日立は国内のFDE人材を7月時点の約300人から年度末に約1000人へ拡大すると決算資料に明記した。富士通は、FDEを起点としたビジネス創出によって2030年度に約1500億円の売り上げを試算していると説明した。
同じ記事は、冷めた見方も紹介している。
「日本企業がいうFDEは、顧客先に常駐して開発するSI(システムインテグレーション)やSES(システムエンジニアリングサービス)を単にイマ風に言い換えただけだ」
記事の筆者は、両者を分ける基準は「自社プロダクトの有無」にあるのではないか、と書いている。ただ、その線を引けるのは製品戦略を握る側で、あなたの手元にある権限ではない。あなたが役員に見せられるのは、自分のチームの常駐メンバーが毎日何をしているかだけだ。
そして、そこが外からは1枚に見えている。請求は「何人月」でしか立たず、作業と判断の内訳は誰も見ていない。
判断が人月に混ざって売られている状態を「混ぜ売り」と呼ぶ#
常駐メンバーの1日には、性質の違う2種類の仕事が入っている。1つは仕様どおりに作る、テストを回す、定例資料を整えるといった、人数と時間で値付けされる作業だ。もう1つは、顧客のどの部署が何を嫌がるか、過去のどの決定がいまの制約になっているかを踏まえて「これは今やらない」と決める判断だ。
この2つが同じ単価で一緒に請求されている状態を、私は「混ぜ売り」と呼んでいる。混ぜ売りのままだと、AIで作業が速くなった分だけ人月が削られ、判断の分まで一緒に値切られる。
将来性を問われて詰まるのは、あなたが業界動向に疎いからではない。答えるための内訳が、どこにも書かれていないからだ。
提案を出す側にいる私の実感でも、一般情報に基づく選択肢の整理は、客先からAIで代替される前提で語られるようになった。余地が残っているのは、そのクライアント特有のコンテキストに基づく整理や方向づけだけだ。一方で業界には、FDEと言えば客がなんとなく納得してくれる空気まである。私はこれを本質的だとは思っていない。看板を替えても、混ぜ売りの中身は変わらないからだ。
技術ワークのレーンだけが安く値付けされていく流れは、発注側がAIで武装した後に単価の根拠が崩れる算数として別に書いた。混ぜ売りはその流れに判断まで巻き込まれる形だ。
2枚を分ける判定は、次の一問で足りる。
同じスキル表を持つ別会社の人が来週から入れ替わっても、同じ品質で回るか。
回るなら人月で買われている作業、回らないなら顧客固有の判断だ。迷う仕事は、顧客側の誰がそれを頼りにしているかを役職で言えるかで切る。言えなければ作業側に置く。
常駐メンバーの仕事を2枚に書き分け、判断の1枚から役員に出す#
書き出しは部下本人に任せ、仕分けと出す順番だけをあなたが持つ。部下1人あたりの書き出しは15分、あなたの仕分けは1人10分が目安だ。
書き出しは部下本人にAIで作らせる#
部下の1週間を思い出して書くのは、あなたの仕事ではない。本人が一番知っているうえ、上司が代筆すると判断の側が真っ先に抜け落ちる。次の依頼文をそのまま部下に渡し、AIに下書きさせて返してもらう。
直近1週間の常駐先での仕事を、カレンダーとチャットを見ながら
箇条書きにしてください(AIに下書きさせてかまいません)。
1行1件で「何をしたか」と「それを決めたのは誰か」を書く。
各行に次の印を付ける。
A:同じスキルの別会社の人が来週から代わっても、同じ品質で回る
B:回らない。顧客の事情・過去の経緯・関係者を知っている前提で決めた
Bの行には、顧客側でそれを頼りにしている人の役職を添える。
社名・個人名はAIに入力しないこと。印は自己申告のまま受け取らず、1回だけ引き直す#
部下はBを多めに付けやすい。自分の仕事を作業と呼ばれたくないからだ。逆に、本人には当たり前すぎてAを付けている判断もある。あなたが見るのは2点だけでいい。
- Bの行に顧客側の役職が書けているか 書けていなければAに戻す
- Aの行に「やらないと決めた」が混ざっていないか 混ざっていればBに上げる
これで2枚になる。1枚目が「顧客固有の判断」、2枚目が「人月で買われている作業」だ。
役員説明では判断の1枚を先に出す#
順番を逆にすると、役員は作業の1枚を見て、AIでいくら削れるかの話を始める。判断の1枚を先に置けば、問いが「将来性」という答えようのない形から、「この判断を誰がどの値段で持つか」という答えられる形に変わる。冒頭の口頭は次の文面で足りる。
将来性のご質問に、チームの仕事の中身でお答えします。
常駐メンバーの仕事を2枚に分けました。
1枚目は、顧客固有の事情を知らないと下せない判断です。担当が代わると止まります。
2枚目は、人月で買われている作業です。AIで圧縮できる前提で見ています。
本日は、1枚目を次の契約更新の提案で別建てにするかをご判断ください。2枚は一度作って終わりではない。作業の1枚が半期ごとにどう痩せていくかは、評価される仕事の中身の入れ替わりを棚卸しで拾う手順と同じ要領で、前回分と並べれば差分として見える。
逃げの一手:判断の1枚が白紙なら、白紙のまま出して持ち帰る#
書き出してみると、1枚目がほぼ空になるチームもある。それは部下の能力の問題ではない。顧客との判断があなたかPMに吸い上げられ、常駐メンバーには作業だけが降りている配置の結果だ。
その場合は取り繕わず、白紙のまま出して次回に繋ぐ。
現時点で、常駐メンバーが持っている顧客固有の判断はほぼありません。
判断は私とPMに集まっています。
次回までに、作業側をAIで圧縮して空いた時間へ、どの判断を移すかの案をお持ちします。役員から「それは管理職のマネジメント不足だ」と返されても、弁明しなくていい。白紙は、判断があなたとPMに集まっているという配置の事実を、次回の改善案つきで出した形になっている。文面の2行目と3行目をそのまま繰り返せば足りる。その指摘は、案を持参する約束の入口として使える。
どの判断を手元に残し、どれを部下へ移すかは、AIでも消えない管理職の仕事を3つの構造で切り分けた設計がそのまま物差しになる。役員が会社全体の将来性まで数字で求めてきたら、それは製品戦略の問いだ。あなたが答えられるのはチームの仕事の中身まで、と線を引いて席に戻っていい。役員の前で断言するのが査定に響きそうで怖いなら、線引きの言い方を、次に誰へ聞けばよいかを示す形に替える。
製品戦略の判断は私の持ち分を超えるため、担当の方のご意見も合わせてご確認ください。
私からは、チームの仕事の中身をお出しします。まとめ:将来性は、内訳でしか答えられない#
混ぜ売りのままでは、作業が安くなるたびに判断も一緒に値切られる。役員に出すのは業界の見通しではなく、判断の1枚だ。
本記事は AI が下書きし、管理人が監修しています。
査定に載らない組織仕事を振られたその日に、そのまま出せる定型文が3通ある。
→ 期待値コントロール定型文集(抜粋版)続きはタイムラインに置いていく。
