2026年3月、支援先のIT部門から届いた依頼に、PCの前で一瞬固まった。「技術要素の比較検討も自社観点の推奨案もAIでいくらでも作れるので、専門家として第三者的に監査してほしい」。
数年前まで、比較と推奨を出す仕事こそが上流コンサルの本業だった。その仕事に、名指しで「もうAIがやる」と言われた。
flowchart TD
A[客先がAI武装] --> B[RFP精緻化]
B --> C[検証役に転落]
C --> D[差別化条件消失]
D --> E[単価の根拠喪失]
客先のRFPも打ち合わせも、AIに先回りされている#
客先から届くRFPの緻密さが、2026年に入って明らかに変わった。同じ変化は、打ち合わせの空気にも起きている。
2026年1月頃から、明らかにAIで作られたと分かるRFPを3件受け取った。いずれもコモディティ領域の設計実装案件で、情報の網羅性と緻密さが2025年夏頃までとは段違いだった。この分量を1週間程度で書けるはずがない。
受け取る側もAIの力を借りて回答を作る。紙面上の依頼と紙面上の回答だけでは、その約束が実際に遂行されるか分からない。だからRFP自体が形式的なものになってきている。
打ち合わせも同じ構造で変わった。客先の担当者が事前にAIで予習し、構成案や相見積もりの妥当性まで持ってくる。説明する側だったこちらは、一次情報を持つ側から検証役に回された側に立たされる。
最重要ファクターは、責任と実行完了の担保、コスト内で完遂できるかの確約に移った。クライアントの最大の関心事は「その約束を完遂できる人間が本当にアサインされるのか」だ。最近のRFPでは、社内調整・チェンジマネジメントのレーンと、技術的ワークのレーンの見積を打ち分けることを義務化するケースが増えている。
単価の根拠だったバリュープロポジションが消えた#
これまでの単価を支えていたのは、技術翻訳の希少性だった。それを担保していた3条件が、AIでまとめて崩れている。
- 客先の技術理解が浅いこと 説明できる人間の希少性を担保していた
- 社内の言葉を一般語に直せること 両側の言語を話せる人間が少なかった
- 構成の選択肢を頭に持っていること 引き出しの数がそのまま単価になっていた
この3つすべてが、AIで部分的に代替される。客先は予習し、社内側もAIで説明文を書き、選択肢は誰でも引き出せる。翻訳者の希少性が、客先のAI武装で構造的に落ちている。
対抗策として「丁寧に説明する」「資料を厚くする」に走るのは、燃料の分母を増やすだけだ。H = Result / Energyで、分子が変わらないまま分母だけ膨らむ。
翻訳という粒度だけの話ではない。コンサルとしての単価そのものを支えていたバリュープロポジションも、同じ理由で壊れている。これまでの単価は、バラバラに存在する知見と情報を1パックに集約して提供する、情報の格差とリーチの広さが源泉だった。超上流から最下流まで1本の筋を通せることも根拠だった。
大規模言語モデルとAIエージェントで、この前提が丸ごと崩れた。情報の格差もグローバルリーチも低単価人材も、差別化として効かなくなる。顧客に提示する単価が月300万だとして、比較対象のAIは最上位プランで月3万。100倍近い価格差がつけば、人を選ぶ理由そのものが消える。
外の数字も同じ方向を向いている。Stack Overflow Developer Survey 2024では、回答者の76%が業務でAIツールを使うか使う計画があると答えている(出典)。Goldman Sachsは2023年、自動化可能な業務量が米欧で約3億人分のフルタイム雇用に相当すると試算した(出典)。どちらも文書作成と情報整理を直撃ゾーンとしている。
2014年、情報セキュリティスペシャリストを取った。海外のCSOと組むことになって慌てて取った資格で、当時は名乗るだけで一定の信頼が生まれた。だが資格は「議論の俎上に上げてよいかの足切り」にすぎない。「一緒に働きたいか」「金を払いたいか」は別のレイヤーにある。
資格を積み増して単価を上げるのは、手段と目的の履き違えだ。技術知識の量ではなく事業価値をどう証明できるかで単価を語れるか、これが今期の判定基準になる。資格による差別化がすでに数字の上でも機能しなくなっている構造は技術知識の賞味期限が縮んだ年度、SIerで年収を守る燃料計算に書いた。
AIに出せない差別化は、現場の生情報にしか残っていない#
客先の担当者もAIで武装していく中で、まだ置き換えられていないものがある。クライアントと周辺の人間関係、役割分担の細部、誰がどちらを向いているか、役職者が板挟みになっている状況、いま目の前で解決しなければと焦っていること。これらは文書化もデータ化もテキスト化もされておらず、デジタル世界のどこにも存在しない。現場・現物・物理の世界で起きていることのすべてが、差別化の材料になり得る。
その情報を取りに行く動きを、自分が省いた案件がある。ある企業から届いたRFPは、これまでの取り組みの立て直しを1か月のお試し支援で頼みたいという内容だった。話を聞きに行った段階で、後ろに続く案件は続かなさそうだと踏んだ。
だから議事と社内情報と類似事例をAIに入力して提案書を書かせ、自分でレビューして出した。使った時間は5時間もない。ヒアリングに足を運んだのは1回・1時間だけだった。結果、選定されなかった。
本当に取りにいくなら、提案の途中で何度も足を運び、課題の奥底まで掘り返すべきだった。まだ世に出ておらずテキスト化もされていない生々しい現場情報を集めて盛り込むべきだった。それをしなかったから表面的な提案になり、通らなかった。
足で情報を稼ぐ動きは、得意不得意がはっきり分かれる。若手だから苦手というわけではない。むしろある程度のシニオリティが要る。そこそこの精度で仮説を立てて相手の状況を予測した上で持っていける人でないと、そもそも土俵に立てず入り口で門前払いされる。
「問いを立てる力」の内訳は2つだ。現場の生々しい情報を開くための仮説設計力と、その情報からより深い洞察を引き出す仮説を、その場で組み立てて口に出す力。AIで速く書けることは、もう差別化ではない。
燃料をほぼ使わず今期中に打てる3つ#
下準備は3つで足りる。期待値コントロールに使う材料を、今のうちに集めておく話だ。
- 直近3案件の提案書を自分でAIに入れて再生成する 実際に何分で何割を出せるかを測る。これが自分の単価のうち何割がAIに置き換わるかの実測値になる
- 過去半年の議事録から「意思決定の理由」を1行で抜き出す 技術的理由ではなく、政治的・予算的・人的な理由の方を拾う。抽出作業はAIに投げてよいが、出力を文脈と照らして補正するのは自分の仕事だ。具体手順は1on1の準備に溶ける20〜30分を、ChatGPTに丸投げして当日台本まで作らせるに書いた
- 提案を出す前に、テキスト化されていない現場情報を1つだけ書き出せるか自問する 議事録や資料には出てこない、誰かの本音や板挟みの状況を1つでも具体的に書けるか。書けなければ、その提案はAIが書いた他社の提案と見分けがつかない。これが「ヒアリングをもう1回増やすべきか」の判定基準になる
この3つは、今期中に燃料をほぼ使わず実行できる。
技術を積み増すなら、中途半端はやめたほうがいい。目安は、他の誰も解決できなかった性能問題に投入されたら、なぜか1週間で解決してしまうレベルだ。そこまで届かないなら、技術の深掘りより上のレイヤー——業界知識や意思決定の文脈——に燃料を寄せたほうが割に合う。
「コーディングはAIの仕事」と言い切った経営者が出た後、何を残すかの仕分けは「コーディングはAIの仕事」とGMO代表、技術力の杭が1本抜けたに書いた。品質管理と批判的思考をどこに投じるかは「AIに遅れる恐怖」より怖い判断ミスのスケール問題に書いた。上司自身のAI活用が組織のレバレッジになる構造は会議で「AIに確認した」と言うだけでチームの数値が変わる——非対称レバレッジに書いた。
逃げの一手#
移行が間に合わないと感じたら、退路を先に確保する。退路はふたつある。
ひとつは、特定業界のドメイン知識に資源を集中させることだ。たとえば金融、製造、医療、公共など、いずれか一つで「この業界の意思決定プロセスを語れる人」になる。業界の規制・商習慣・社内稟議の通り方は、AIが学習データに持ちにくい領域だ。
もうひとつは、客先常駐型のプレイングマネージャーから事業会社のIT部門への移籍ルートを開いておくことだ。事業会社側は今、AIで自己補完を始めた側であり、彼らに必要なのはベンダーを使いこなせる元SIer人材だ。翻訳の経験は、買い手を入れ替えれば値段が戻る。転職サイトを開くこと自体の罠は転職サイトを眺めるだけで3年——「動かない」が正解になる判断基準に書いた。
どちらの退路も、今日決める必要はない。退路を持っていることを自分が知っている状態が、明日からの打ち合わせの空気を変える。
まとめ:客先のAI武装が消したのは、翻訳の値段の根拠だった#
客先のRFPがAIで緻密になったのは事実で、単価を支えていた技術翻訳の希少性という前提はもう戻らない。残る差別化は、テキスト化されていない現場の情報をどれだけ稼げるかだけだ。
本記事は AI が下書きし、管理人が監修しています。
査定に載らない組織仕事を振られたその日に、そのまま出せる定型文が3通ある。
→ 期待値コントロール定型文集(抜粋版)続きはタイムラインに置いていく。
