上司から「来月この案件も持ってほしい」と言われた夜、あなたはおそらく断れなかった。
断れなかったのは意志の問題ではない。引き受けを断ったとき何が起きるかを、あなたの体が知っているからだ。
flowchart TD
A[実務責任] --> C[1人で2役]
B[管理責任] --> C
C --> D[管理職手当で買い叩き]
D --> E[燃料計が下がり続ける]
マネジメント専任がほぼ存在しない理由#
外から観察してきた限り、この非対称に最初に気づく課長は少ない。
産業能率大学 総合研究所が上場企業の課長を対象に実施した調査(第6回・2021年)では、回答者の99.5%が自身をプレイングマネージャーと認識していた。一方でマネジメント専任という立場を選べた課長は、わずか0.5%にとどまった。(出典: 上場企業の課長に関する実態調査 第6回)
この非対称は偶然ではない。
マネジメント専任の課長を置くということは、会社が「管理業務に人員を割く」という意思決定をすることを意味する。しかし現実の人件費設計は逆だ。実務担当者1名分のコストで、実務とマネジメントを兼ねさせる。これが「プレマネが標準になった」構造的な理由だ。
私が話を聞いてきた課長たちは口を揃えて言う。「気づいたらプレマネになっていた。なった経緯の説明は一切なかった」と。プレマネは打診されるものではなく、実務を引き受け続けた結果として事後的に発生する。この静かな拡張が、断る機会をそもそも与えない設計になっている。
時間比率で現状を可視化する#
プレマネ状態の深刻さは、感覚では測れない。燃料計で測る。
まず先週の稼働時間を思い出す。次にその時間を「実務」と「マネジメント」に仕分ける。実務とは、自分が手を動かして成果物を出す作業だ。マネジメントとは、部下の進捗確認・1on1・評価コメント・役員への報告など、人と組織を動かす作業だ。
| 分類 | 先週の概算時間 | 全体に占める比率 |
|---|---|---|
| 実務(プレイング) | 時間 | % |
| マネジメント | 時間 | % |
| その他(会議・雑務) | 時間 | % |
この比率が見えた瞬間に、あなたはすでに算数の土台を持っている。
雇われの算数では、H = Result / Energy で燃料効率を測る。プレイングとマネジメントは同じ1人分の燃料(Energy)から出ていく。2本の成果要求(Result)がある以上、Hは構造的に下がり続ける。これを可視化せずに「なぜこんなに疲れているか分からない」と言っている間は、会社の設計通りに消耗し続けるだけだ。
比率を見て実務が70%を超えているなら、あなたは管理職手当でプレイヤー業務を買い叩かれている状態だ。管理職手当は本来「マネジメントという高度な役割」への上乗せのはずだった。実務比率が高いほど、その手当の単価は割に合わない計算になる。
(なぜこの疲れの正体が分からないかを感情支出の観点から整理したのは感情支出を5分で可視化する燃料家計簿に書いた)
「これ以上引き受けない」交渉の設計#
時間比率が可視化できたなら、交渉の材料はすでに手の中にある。
交渉の基本は数字を使うことだ。「多すぎます」は主観なので跳ね返される。「実務が今週42時間で、マネジメントに使えた時間は6時間でした」は事実なので反論しにくい。
交渉の手順は3段階に絞る。
1. 先週の時間比率を数字で提示する。「実務とマネジメントの比率が現在8:2です。これ以上実務を引き受けると、マネジメントの質が下がり、部下の育成に遅れが出ます」。事実を先に出す。感情は後ろに置く。
2. 引き受けられる上限を明示する。「今月はこの業務範囲が私の引き受け可能な上限です」と先に設定する。上限を言わないと、上司には「まだ余裕がある」に見える。業務量が多いと感じていても8割が「言っても変わらない」と諦めるのは、上限を数字で提示する前に諦めているからだ。
3. 追加分の委譲先を1名提案する。「この案件は部下の田中さんに担当させ、私がレビューする形を提案します」と代替案をセットで出す。代替案がない交渉は「私は嫌だ」にしか見えない。代替案があれば「私はここに集中する」という意思表示になる。
この交渉は1回で通らないことがある。それは正常だ。1回目は「そういう数字を持っている課長」として認識させるための布石だ。次の案件打診のときに、同じ数字を出せば2回目の重みは増す。
(査定面談で数字を先出しして主観評価に対抗する技法は査定で「期待以下」と告げられた課長が動かすべき3つの数値に詳しい)
逃げの一手#
上記の交渉を試みても、「課長なんだから両方やるのが当然だ」で押し返される場合がある。
それはあなたの交渉力の問題ではない。その会社が「プレマネへの過負荷を維持することで人件費を抑える」という経営判断をしている、という事実の確認だ。一介の課長の交渉で変わる設計ではない。
このとき退路は2本ある。
一つは、役割を1本に絞る申請を出すことだ。「実務のスペシャリストとして評価される職種に異動したい」あるいは「マネジメント専業の立場に就きたい」という申請は、人事制度上は多くの企業に存在する。失敗しても現状維持。成功すれば評価軸が1本になる。
もう一つは、転職市場でのプレマネ経験の値段を調べることだ。転職サイトへの登録は決断ではない。「今の場所で引き受け続けることの機会コストを知る」行為だ。
外から観察してきた限り、転職サイトを登録したまま何年も開かない課長は多い。転職サイトに登録したことを「逃げ」と感じて罪悪感を持っているのも珍しくない。しかし知らずにいる状態と、知った上で留まる状態は、消耗の種類がまったく違う。
まとめ:診断なき消耗は会社に得をさせる#
時間比率を測らないままプレマネを続けることは、会社の設計通りに動くことだ。
あなたが「多すぎる」と感じているその仕事量は、先週の時間で数字になる。数字になった瞬間、交渉の入口が開く。
本記事は AI が下書きし、管理人が監修しています。
