月100時間働いた社員が、勤怠記録に書いた数字は「80時間未満」だった。
2026年6月21日の東京新聞が、政府が裁量労働制の優良事例として名指しした日立製作所の実態を報じた。記事によれば、月100時間規模の残業がありながら勤怠記録は80時間以内に収められ、PCの起動時間を「無効化」する手順を案内する社内メールまで流通していたという。
外から観察してきた限り、この記事に過剰に反応した課長は、たいてい身に覚えがある側だ。残業を隠す設計の運用者として、いつのまにか加担させられている。
flowchart TD
A[実残業100h] --> B[勤怠80h未満]
B --> C[PC記録を無効化]
C --> D[正直者が詰む]
政府の「優良事例」が意味すること#
政府が称えたのは、働き方の自由ではない。残業が「見えなくなった」という結果だ。
裁量労働制の建前は「時間ではなく成果で働く」だ。だが日立の件で露呈したのは、成果で測るどころか、実労働時間を帳簿上で消す運用が現場で回っていたという事実だった。月100時間が80時間未満に化け、PCの起動時間という客観記録まで無効化される。
ここで雇われの算数を一つ置く。残業代の出ない裁量労働制において、会社にとって残業時間の記録は「払う義務」ではなく「叱られるリスク」でしかない。だから記録は小さいほうが都合がいい。労働者の健康のためではなく、行政指導を受けないために数字が削られる。
優良事例という看板は、この削り方が上手だったという評価に近い。あなたの会社が同じ看板を欲しがっているなら、削られる数字の側にあなたがいる。
正直に書く人間だけが標的になる#
この設計の最も残酷な点は、ルールを守る人間が損をするように出来ていることだ。
私が話を聞いてきた課長たちは口を揃えて言う。実態どおりに勤怠を打刻すると、上長から呼び出されて「打ち方を相談される」のだと。100時間と書けば、それを80時間未満に直すための面談が始まる。直さなければ、管理能力を問われるのは打刻した本人だ。
つまり、正直に記録した瞬間に「制度を回せない管理職」というラベルが貼られる。逆に、部下の数字を上手に丸めた課長は「うまくやっている」と見なされる。評価の矢印が、改ざんの巧拙に向いている。
役員の機嫌を損ねないために、部下の100時間を80時間に書き換える。これは一日の終わりにやる、もっとも燃料効率の悪い作業だ。成果は1ミリも生まれない。生まれるのは、いざ過労で誰かが倒れたときに、書き換えた本人が責任を負う退路のなさだけだ。
評価の矢印がどこに向いているか、数字で確認しておくことが先決だ(査定面談で自分の評価軸を数値3点で把握する方法)。
あなたの裁量労働制を燃料計で3点だけ確認する#
雇われの算数として、私もこの矛盾を計算したことがある。「うちの制度はまともか」を感覚で悩んでも燃料が減るだけだ(燃料がどこに消えているかを可視化する燃料家計簿の使い方)。次の3点を事実ベースで確認する。
1. 勤怠の数字と実態がずれていないか#
自分か部下の打刻が、実際の退勤時刻やPCログと一致しているか。「80時間の壁」の手前で不自然に止まる月が続くなら、それは偶然ではない。記録が設計的に丸められている証拠だ。
2. 数字を直せという指示が口頭で来るか#
改ざんの指示はメールに残らないことが多い。口頭やチャットの即時削除で来るなら、会社自身がそれを違法だと知っている。指示の形式そのものが、制度が壊れているかどうかの判定材料になる。
3. 残業時間が評価に効いているか#
残業代は出ないのに、残業時間の長さが「貢献」として査定に反映されるなら、二重に詰んでいる(この矛盾は査定面談で先に殺すしかない)。払わない時間で評価する設計は、燃料を一方的に抜き取る構造だ。
3点のうち2点が当てはまるなら、その制度は「自由な働き方」ではなく、残業を隠すための器だと判断していい。
逃げの一手:改ざんの記名者にならない#
この構造で課長が最初に守るべきは、部下でも会社でもなく、自分が「改ざんの記名者」にならないことだ。
第一に、勤怠の修正指示が来たら、修正を自分の手で実行しない。「打刻は本人の自己申告なので、本人に確認します」と差し戻す。改ざんの操作者が誰か、という一点が、後日の責任の所在を分ける。
第二に、口頭で来た指示は、自分宛のメモに日付つきで残す。送信先は自分だけでいい。これは戦うための武器ではなく、いざというとき「指示されてやった」と「自発的にやった」を区別する退路だ。
第三に、自分自身の実労働時間だけは、会社の勤怠とは別に手元で記録しておく。倒れる前に異動や休職を選ぶとき、客観的な労働時間の記録は安全配慮義務を会社に問う唯一の根拠になる。
まとめ:制度の正しさを信じる前に、記録の在処を確認する#
政府が優良と呼ぼうが、現場でPCの起動記録が消されているなら、その制度はあなたを守らない。
裁量労働制が機能しているかは、看板ではなく勤怠の数字が実態と一致しているかで決まる。確認するのは3点、守るのは自分が改ざんの記名者にならないことだけだ。
本記事は AI が下書きし、管理人が監修しています。
